2012年1月10日火曜日

物忘れ&後だし~Andreas Dorau『Todesmelodien』(2011)

すっかり年間ベストに入れ忘れていたが、アンドレアス・ドラウの去年の作品もポップ・フリークにはたまらない内容だった。パレ・シャンブルグ再結成(乞・来日!)、ピロレーターの超久々の新作とノイエ・ドイチェ・ヴェレ(=New German Wave、ドイツの80'sニューウェーヴ/パンク)のオリジネイターたちがここにきて元気にがんばっているが、そのなかでも更年期障害的な狂気を感じさせるドラウ先生のアルバムは異彩を放っていた。

そういえば、NDWを代表する名レーベルATA TAKからかつて発表されたDIE DORAUS & DIE MARINAS名義の1st『Blumen Und Narzissen』(写真左)と2nd『Geben Offenherzige』が今年の2月にBureau B(先述のピロレーターの復活作やファウスト、クラスターのローデリウスの作品なんかも出してる)から再発されるようだ。どちらもすばらしい作品なので素直に嬉しい。アマゾンでもめっちゃ安いし
ドラウといえば、何はともあれ1stにも収録の「Fred Von Jupiter」だろう。ヨレヨレのヴォーカル、へなちょこ電子音、へったくそなコーラス。緩いダンスも宇宙船の安っぽい描写も完璧な、80年代を代表するエレポップ。16歳のとき夏休みの課題でいやいや作った…というエピソードも有名だが、実際に大ヒットしてドイツの子どもはみんな口ずさんでいたそうだから驚きだ。詳しくはこのレコ評を読んでもらえれば、上記の再発2枚も絶対買いたくなること請け合い。
覚えたて30分のズサンなシンセ演奏をバックにヘボ甘ボイスで愛を囁き、まわりに侍らせたアーリーティーンの女の子たちに「アタシもうあなたにメロメロ」とコーラスさせる。ロリ趣味全開の変態キュートなテクノポップは、どこまでものんきで、人を食っていて、ちょっと情けなくて。




そんなドラウも去年で47歳。すっかりオジサンの仲間入りしたわけだが(といってもデビューが早いだけあって、80年代組としては若いね)00年代に入ってからも老いてますます狂ってる。これらの作品が言及されているのをあまり見かけないのは残念だが、いかんせんショップでも置いてるのをそんなに見かけないし、当時大ファンだった人もリリースされていることすら知らなかったりするのかもしれない。いや、本当にいいんだって! その健在ぶりは去年のアルバムからのシングル「Größenwahn」のアートワークを見てもらえば一目瞭然だ。


みよ、このセルフカヴァーっぷり! 少年の心をもったまま中年になってしまったかのようなピュアな眼差し。(頭のなかだけ)永遠の16歳! 田舎の通学路で子どもにお菓子でも配ってそうだ。「Fred Von Jupiter」以降も「Junger Mann」「Girls In Love」「Das Telefon sagt Du」などキャッチーな楽曲を連発してきた彼だが、この曲もそれらに負けず劣らずポジティブなヴァイヴに満ち満ちている。同曲のsoundcloudのページについているコメントで「beach boys 2.0」と評している人もいるが、ドラウ流のスペクター・サウンド解釈といった趣もある。ちなみに"Größenwahn"とは誇大妄想のことを意味する。




Andreas Dorau - Größenwahn by staatsakt


その"誇大妄想"で幕を開けるアルバム『Todesmelodien』は、"死のメロディ"を意味するタイトルどおり、ドラウ史上もっともシリアスなレコードとなっているそうだ。脇に挟まれているのが青春期の象徴といえる『キャッチャー・イン・ザ・ライ』のハードカバーとジョンとヨーコの『Double Fantasy』のレコードというのも意味深である。しかし、歌詞を踏まえずに聴けば内容のほうはその重いテーマを微塵も感じさせないポップで屈折した楽曲がずらりと並んだメルヘンチックな中年ドラウワールド全開である。
05年の前作『Ich Bin Der Eine Von Uns Beiden』がキラキラしながらも腰の据わった年齢相応の美しいアダルティ・ディスコ
作(イアン・マシューズAOR時代の名曲「Man In The Station」をサンプリングした「40 Frauen」や、カーリングの映像も美しい「Kein Liebeslied」を聴いてもらえれば)だったとすれば、『Todesmelodien』は2011年に隆盛を誇ったエレポップのどの曲にも負けないナウでヤングな瑞々しさがある。




先述の「Größenwahn」や、冬の枯れ木のなかをひとり彷徨い歩き転がり回る、惨めで滑稽きわまりないビデオも泣けてくる(2分半あたりで出てくるキノコが不気味…)「Stimmen in der Nacht」を聴けばそのハイクオリティっぷりに唸らされるだろう。スネオみたいな歌声も相変わらず魅力的だし、バックトラックの表現の豊かさに唸らされる。アルバム後半に収録された、DJ諸氏が喜びそうな四つ打ち「Inkonsequent」「Und Dann」は、脂の乗ってきた若手…たとえばLo-Fi-Fnkあたりと繋いでも違和感がなさそう。

このフレッシュさは参加している面々の影響も大きそうだ。本作の独特の浮遊感はマウス・オン・マーズのAndi Thoma、DJ KozeやCosmic DJとのユニットであるInternational Ponyの活動で知られるCarsten"Erobique" Meyerの貢献が大だろう。ほかにも、日独合作ピンク映画『おんなの河童』(最高だから観たほうがいいよ~)にデタラメ日本語テクノ・ポップを提供したことで話題になったステレオ・トータルのFrancoise Cactus女史や、80年代から現代までエレポップ・アイコンでありつづけるインガ・フンペなども参加している。すばらしきかなドイツ人脈!
ってことで、最後にこれらゲストの名曲を下に貼りつけて自己満足的にこの項おしまい。個人的にも大好きな人たちばかりで、『Todesmelodien』が傑作となったのも必然といえば必然。