2012年8月31日金曜日

Trampaulineがやってくる! 9/6@o-nest



9月も楽しみなライヴがたくさんあるけど、個人的にたくさんの人に観てほしいと強く願っているのが
Trampauline(トランポリン)。チャ・ヒョソン(写真左)を中心に結成された、韓国のインディーシーンでもひと際輝く知的でクールなシンセポップ・ユニットだ。去年の秋に紹介してもらって以来のお気に入りで、今年の6月にリリースされた2ndアルバム『This Is Why We Are Falling For Each Other』の国内盤では解説も書かせてもらうなど、すっかり惚れ込んでしまった。

躍動感のあるイメージを意識して名付けられたというバンド名。ヒョソンは小さい時に祖母の家にあったトランポリンで飛んだり跳ねたりして遊んでいたという。「四角い箱よりも、うねうねしたタコみたいになれたら」というヒョソンの発言どおり、バウンシーだけど押し付けがましくないリズムと、韓国ポップス特有の哀愁ただようウェットなメロディ、そして“Trampoline”でなく“Trampauline”とひねってしまう、現代的なユーモア(彼女いわく「少なくともグーグルで検索しやすくはなったわよね(笑)」)がこのユニットの魅力。最近のお気に入りとして、セイント・ヴィンセントやメトロノミー、ジョニー・ジュエルなど新進気鋭のインディー・アクトを挙げていたけど、彼らと同時代らしいセンスを共有しつつ、オンリーワンな個性も放っている。




日本でもここ最近シティポップが再評価されてきているけど、トランポリンの音楽もきっとソウルの街並みによく映えるんだろうなと、行ったこともないクセに勝手に妄想している。酔った男女が二人の秘密を胸に、白バイに追いかけられながら夜の街を疾走する「Bike」という曲があって、まばゆいネオンの光と少女の淡い恋心が交錯するようで、なんだかドキドキなのだ。男の下心を見透かしながら、ほろ酔いでつかまって「家まで連れてって」と懇願する女の子。するどい観察力と抑えきれない感情とともに、私小説のような筆致でアナログシンセの響きは揺れる。肌の温かみや涙の粒にまで触れてしまえそうな、こんな人間臭いダンス・ミュージックはそうそうない。

恋愛観についてヒョソンに尋ねたら、ジョン・カサヴェテスの映画『ラヴ・ストリームス』を引き合いにだして、「愛とはとめどなく流れるもの。あちこちに揺れて、注がれたり移りまわったりする。一度でもその動きが静まると、まわりの世界も止まってしまう。そして、あなたは死ぬ」と答えがきた。そのあと、ちょうどいいタイミングでシアター・イメージフォーラムにてカサヴェテスの特集が組まれたので、ぼくも『ラヴ・ストリームス』を観てきて、震えて、彼女の言葉と音楽の意味がわかったような気がした。

あなたはずっと前から知っている人
ずっと前に失った人
あなたみたいな人を愛したことがある
それがあなたに恋した理由
あなただってそんな恋をしてきただろう
だから、初めての恋みたいに私を愛してほしい

「Love Me Like Nothing's Happened Before」はこんな感じの曲。「まるで運命の出会い!」みたいな恋はドラマを除けばそうそうなくて、寂しいから寄り添って、こじれて別れて、けっきょく傷ばかり増やしてしまう。だから初めてのような恋をしたい。不器用にこんがらがって、みっともなく泣き暮れて、だけど人生は進むし、愛されたいし愛したい。すぐれたアジア映画にあるのと同種の、無常感と生への渇望。曲調がクールで軽快だからこそ、背景にあるであろう紆余曲折がより浮き彫りになって、想像するとなんだか泣けてしまう。佇まいはキュートでファッショナブルだけど、根っこには複雑に渦巻く何かがある。そんな彼女の曲が、もうすぐ渋谷のラブホテル街の一角で鳴り響くと思うとワクワクしてしまう。

トランポリンの大ファンだという麓健一や、on button downの共演も嬉しい。DJ出演のtwee grrrls clubさんのブログには「同じアジアにこういう感覚の女の子が居る事がなによりも心強いです。」とあるけど、政治情勢がこじれてる今だからこそ、この素敵な音楽のうまれた土壌についてもっともっと知りたいです、個人的に。何はともあれ、今から本当にたのしみ!


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Trampauline
『This Is Why We Are Falling For Each Other』
now on sale













【Trampauline – Live in Tokyo @渋谷O-nest】

■2012.09.06 (木)
[TIME]OPEN: 18:30 / START: 19:00
[ENTRANCE]ADV: 3000 / DOOR: 3500 (ドリンク別)
[PLACE]渋谷O-nest
渋谷区円山町2-3 6F
TEL :             03-3462-4420      
HP:http://shibuya-o.com/nest/2012/09


[LIVE]
Trampauline(from KOREA)
on button down
麓健一

[DJ]
Twee Grrrls Club


▲各プレイガイド(発売中)
チケットぴあ179-537
ローソンチケット79987
イープラス
O-nest             03-3462-4420      

▲ご予約フォーム(受付中)
http://www.artuniongroup.co.jp/newtok/top/trampauline_yoyaku/


主催:NEWTOK:http://www.artuniongroup.co.jp/newtok/
協力: IRMA records

2012年7月4日水曜日

2012年上半期ベストアルバム

今年も半分終わっちゃった~><とりあえず上半期の20枚だよ~.。.:*・゜゚+。:.゚ヽ(*´∀`)ノ゚.:。

解説その他リリースに絡んだものは今回抜いておきました
(いずれも内容は超最高なので、ぜひ手にとって聞いてみてください)。


アルバム名に各作品のリード・トラック or 自分が好きな曲 or bamdcampのリンクを貼ってあります。
本当は一言コメントもあればいいんでしょうが、20枚ぶん一度に書くのは大変なので
気の利いた日本語記事のリンクも添えておきます。ごめんあそばせ。



1.The Chap / We Are Nobody →[記事]
揺れる脂肪で視覚的効果を生みだすこのMVに顕著な、一筋縄でいかない悪意をふりまいてきた彼ら。かたやこの新譜は、これまでの作風からは信じられない失語症的な虚無感に包まれていたのであった。スティーリー・ダン経由の端正なソング・ライティング、淡々と重ねられるグルーヴィーな演奏。目を惹くコンドーム・ジャケは冷ややかで無機質なシンセ音の肌触りと、絶望的に生きづらい現代への去勢不安(言いたいことも言えないこんな世の中じゃ…)の象徴だ。UKメタポップ・シーンにおけるひとつの到達点。2012年のアルミナム・グループ。Gotyeも大のお気に入り。



2.Hoodie Allen / All American

Jhameelと共演&高速ラップ!ミックステープで火がつき、 普段ヒップホップに縁がなさそうなリスナーを中心に支持層を拡大している元Google勤務のインテリ新鋭。本作はiTunesチャートで一時ニッキー・ミナージュをも追い抜き、ビルボードでも初登場10位。過去にはマリーナ・アンド・ザ・ダイアモンズなどをサンプリングしており、トラックはインディ・ロックとの親和性が高い。







3.Maya Vik /Château Faux-Coupe [記事]













4.Kishi Bashi / 151a →[記事]














5.Saint Etienne / Words And Music By Saint Etienne

音楽原体験を描いた歌詞が泣ける一曲目や若手リミキサー陣からのリスペクトっぷりなど、時代の要請もあっての感動的な復活作はベテランから届いたポップ殉死宣言。





6.La Sera / Sees the Light →[記事]

一番素晴らしかったのはディスクユニオンの購入特典だが、ヴィヴィアン・ガールズ本体を含めてもケイティの最高傑作だと個人的には思います。ドラムがまたよいのだよな。









7.Jenny Owen Youngs / An Unwavering Band Of Light

イングリッド・マイケルソン、ベス・ロジャースらとニューヨーク州立大学パーチェス校繋がりで交友も深い(同じく同校出身のレジーナ・スペクターのサポートも務めた)女性SSWの三作目。前作でのパワフルなバンド・サウンドにさらに磨きがかかり、持ち味の泣きメロも一層冴え渡っている。2曲目最高!







8.Regina Spektor / What We Saw From The Cheap Seat [記事]













9.Norah Jones / Little Broken Hearts [記事]













10.First Aid Kit / The Lion's Roar [記事]













11.Chloë Sunshine / Indian Summer

正確には昨年12月15日リリースだが、あまりに出来がよくてキュートなのでランクイン。多幸感あふれて甘酸っぱいカリフォルニア・ポップ。オレはベスト・コーストより断然コッチ派。









12.Hot Chip / In Our Heads

先日のライヴはアゲアゲ♂でちょー最高だったが、このアルバムで素晴らしいのはそこでは披露されなかったメロウでビートリーなナンバー。モロにトッド・ラングレン「友達でいさせて」な「Now There Is Nothing」、ギャング・ギャング・ダンスのリジーとのデュエット「Always Been Your Love」あたりは何度聴いてもウットリ。アレクシスはソロ名義でもアバウト・グループでもいいので、一度カッチリ作り込んだSSW作品をつくってほしい。





13.fun. / Some Night

もはや西城秀樹の顔しか浮かばない伝説の作品。例の名曲はJhameelもカヴァーしている。










14.Hospitality / Hospitality [記事]

旧友を歌った「Betty Wang」の歌詞がウルっとくる。洒脱。











15.Bright Moments / Natives

Beirutのメンバー(ラッパ担当)でもあるKelly Prattのソロ作。これを渋レコメンしてたのはたしかに渋いというか、さすがルアカ・バップというか。









16.Marthas & Arthurs / The Hit World Of... Marthas & Arthurs [記事]

CDを注文したら手書きメッセージも封入されてました。LOVE!










17.Here We Go Magic / A Different Ship [記事]

世の中には近年のレディオヘッドがまるで響かなくても、ペイヴメントの最高傑作は『Terror Twilight』で、ベックの『Sea Change』やエールの『Walkie Talkie』に今でも夢中な人間が相当数いるはず。このアルバムも神ナイジェル炸裂。








18.Hunx / Hairdresser Blues [記事]

「Do You Remember Being a Roller?」は曲名どおりベイシティローラーズ賛歌であり、ニック・ロウのいたタータン・ホード「憧れのベイ・シティ・ローラーズ」の伝統も踏襲しているとのこと。すばらしい!








19.Alex Tedesco / Pretty Lies

基本は太く重い声を軸にしたサイケ・フォークだが、随所に挿入されるノイズやエフェクトがいちいち過剰。たぶんThis Heatとかも好きなんだろう。Xiu Xiuやダープロが大人になっていく姿に一抹の寂しさを覚えた人向け。ちなみにフリーDL作品








20.Sophia Knapp / Into the Waves [記事]

これもフリートウッド・マック臭全開な作品。アルバム通しての平板さが逆にクセになる。



※おまけ

★邦楽で5選















・タニザワトモフミ / 何重人格
・ventla / anti-vivant
・転校生 / 転校生
・Doit Science / Information
・みみみ / もしもニアンファミリーズが一人なら



★アルバム全体はちょっと…だけど曲単位で好きだったの3つ







2012年1月10日火曜日

物忘れ&後だし~Andreas Dorau『Todesmelodien』(2011)

すっかり年間ベストに入れ忘れていたが、アンドレアス・ドラウの去年の作品もポップ・フリークにはたまらない内容だった。パレ・シャンブルグ再結成(乞・来日!)、ピロレーターの超久々の新作とノイエ・ドイチェ・ヴェレ(=New German Wave、ドイツの80'sニューウェーヴ/パンク)のオリジネイターたちがここにきて元気にがんばっているが、そのなかでも更年期障害的な狂気を感じさせるドラウ先生のアルバムは異彩を放っていた。

そういえば、NDWを代表する名レーベルATA TAKからかつて発表されたDIE DORAUS & DIE MARINAS名義の1st『Blumen Und Narzissen』(写真左)と2nd『Geben Offenherzige』が今年の2月にBureau B(先述のピロレーターの復活作やファウスト、クラスターのローデリウスの作品なんかも出してる)から再発されるようだ。どちらもすばらしい作品なので素直に嬉しい。アマゾンでもめっちゃ安いし
ドラウといえば、何はともあれ1stにも収録の「Fred Von Jupiter」だろう。ヨレヨレのヴォーカル、へなちょこ電子音、へったくそなコーラス。緩いダンスも宇宙船の安っぽい描写も完璧な、80年代を代表するエレポップ。16歳のとき夏休みの課題でいやいや作った…というエピソードも有名だが、実際に大ヒットしてドイツの子どもはみんな口ずさんでいたそうだから驚きだ。詳しくはこのレコ評を読んでもらえれば、上記の再発2枚も絶対買いたくなること請け合い。
覚えたて30分のズサンなシンセ演奏をバックにヘボ甘ボイスで愛を囁き、まわりに侍らせたアーリーティーンの女の子たちに「アタシもうあなたにメロメロ」とコーラスさせる。ロリ趣味全開の変態キュートなテクノポップは、どこまでものんきで、人を食っていて、ちょっと情けなくて。




そんなドラウも去年で47歳。すっかりオジサンの仲間入りしたわけだが(といってもデビューが早いだけあって、80年代組としては若いね)00年代に入ってからも老いてますます狂ってる。これらの作品が言及されているのをあまり見かけないのは残念だが、いかんせんショップでも置いてるのをそんなに見かけないし、当時大ファンだった人もリリースされていることすら知らなかったりするのかもしれない。いや、本当にいいんだって! その健在ぶりは去年のアルバムからのシングル「Größenwahn」のアートワークを見てもらえば一目瞭然だ。


みよ、このセルフカヴァーっぷり! 少年の心をもったまま中年になってしまったかのようなピュアな眼差し。(頭のなかだけ)永遠の16歳! 田舎の通学路で子どもにお菓子でも配ってそうだ。「Fred Von Jupiter」以降も「Junger Mann」「Girls In Love」「Das Telefon sagt Du」などキャッチーな楽曲を連発してきた彼だが、この曲もそれらに負けず劣らずポジティブなヴァイヴに満ち満ちている。同曲のsoundcloudのページについているコメントで「beach boys 2.0」と評している人もいるが、ドラウ流のスペクター・サウンド解釈といった趣もある。ちなみに"Größenwahn"とは誇大妄想のことを意味する。




Andreas Dorau - Größenwahn by staatsakt


その"誇大妄想"で幕を開けるアルバム『Todesmelodien』は、"死のメロディ"を意味するタイトルどおり、ドラウ史上もっともシリアスなレコードとなっているそうだ。脇に挟まれているのが青春期の象徴といえる『キャッチャー・イン・ザ・ライ』のハードカバーとジョンとヨーコの『Double Fantasy』のレコードというのも意味深である。しかし、歌詞を踏まえずに聴けば内容のほうはその重いテーマを微塵も感じさせないポップで屈折した楽曲がずらりと並んだメルヘンチックな中年ドラウワールド全開である。
05年の前作『Ich Bin Der Eine Von Uns Beiden』がキラキラしながらも腰の据わった年齢相応の美しいアダルティ・ディスコ
作(イアン・マシューズAOR時代の名曲「Man In The Station」をサンプリングした「40 Frauen」や、カーリングの映像も美しい「Kein Liebeslied」を聴いてもらえれば)だったとすれば、『Todesmelodien』は2011年に隆盛を誇ったエレポップのどの曲にも負けないナウでヤングな瑞々しさがある。




先述の「Größenwahn」や、冬の枯れ木のなかをひとり彷徨い歩き転がり回る、惨めで滑稽きわまりないビデオも泣けてくる(2分半あたりで出てくるキノコが不気味…)「Stimmen in der Nacht」を聴けばそのハイクオリティっぷりに唸らされるだろう。スネオみたいな歌声も相変わらず魅力的だし、バックトラックの表現の豊かさに唸らされる。アルバム後半に収録された、DJ諸氏が喜びそうな四つ打ち「Inkonsequent」「Und Dann」は、脂の乗ってきた若手…たとえばLo-Fi-Fnkあたりと繋いでも違和感がなさそう。

このフレッシュさは参加している面々の影響も大きそうだ。本作の独特の浮遊感はマウス・オン・マーズのAndi Thoma、DJ KozeやCosmic DJとのユニットであるInternational Ponyの活動で知られるCarsten"Erobique" Meyerの貢献が大だろう。ほかにも、日独合作ピンク映画『おんなの河童』(最高だから観たほうがいいよ~)にデタラメ日本語テクノ・ポップを提供したことで話題になったステレオ・トータルのFrancoise Cactus女史や、80年代から現代までエレポップ・アイコンでありつづけるインガ・フンペなども参加している。すばらしきかなドイツ人脈!
ってことで、最後にこれらゲストの名曲を下に貼りつけて自己満足的にこの項おしまい。個人的にも大好きな人たちばかりで、『Todesmelodien』が傑作となったのも必然といえば必然。